2014年6月アーカイブ

瀬木比呂志氏の書いた「絶望の裁判所」を読みました。裁判所の内部実態が生々しく書かれていて、驚くばかりです。裁判官を精神的檻、収容所群島の囚人たちとまで言っています。この本を世に出した瀬木比呂志氏の勇気に敬意を評します。裁判所の実態はおそらくこの本の通りの世界だと思います。裁判官の経験のない私たち弁護士にも、なんとなくその状況は分かっていたからです。私も、裁判官を退官した弁護士の話や著作等に直接、間接に接して、推測はしていました。ですが、東大法学部在学中の司法試験合格者で、ある時期までは裁判所での超エリートコースを歩み、33年間裁判官を経験した人物の著作ですから重みが違います。かつて現代の科挙と言われ、年間合格者500人前後の超難関の司法試験にあって、東大在学中の司法試験合格者といえば、学閥重視、成績重視の司法官僚の中では、トップエリートです。私のようにそこそこ一流大学を出ていても、苦節10年で、途中、公務員をしながら、やっとの事で合格したのとはわけが違います。その上、先輩や同僚、元の職場の批判をすることは、大変な非難と中傷を覚悟しなければなりません。このことは裁判官の世界は特にそうかもしれませんが、弁護士の世界でも、その他日本の社会では程度の差こそあれ、同じです。このような中で、裁判所内部の絶望的な状況を本にしたのは、それが真実であり、それ程、裁判所の状況がひどいからではないでしょうか。この本の出版の後ですが、つい最近、福井地方裁判所樋口英明裁判長が大飯原子力発電所の運転を差止める判決を出したこと、横浜地方裁判佐村浩之裁判長が厚木基地での自衛隊機の夜間早朝の飛行差止を認める判決を出したこと、私も弁護団で関わった県会議員の旅費返還訴訟で一審の甲府地裁では敗訴したものの、東京高裁で逆転全面勝訴し、この521日に最高裁判所が山梨県知事の上告を棄却して住民の勝利が確定するなど、「司法は生きていた」と実感させる判決が次々と出ています。私たち弁護士も諦めることなく、裁判所、裁判制度がより良いものになって行くように、この本でも指摘している官僚裁判官(キャリア)システムではなく、法曹一元(弁護士を中心とする法曹の中から優れた人材を裁判官にするシステム)の実現を目指して行きたいと思います。

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