弁護士と依頼者との間で最も大切なものは信頼関係です。信頼関係が作れない以上、幾ら着手金が高額でも弁護士は仕事を受任しません。また、依頼者もその弁護士がいかに優秀であっても、信頼関係が築けない弁護士を依頼してはいけません。それは、なぜかと言うと弁護士にとって依頼者の抱えている事件は「他人ごと」なのです。民事の裁判で負けても弁護士がお金を支払う訳ではありません。打撃を受けるのは依頼者です。刑事の裁判で負けても弁護士が刑務所に入るわけではありません。刑を科されるのは依頼者です。また、弁護士は、決まった商品を販売したり、メニューどおりの食事を提供するような、依頼者に定型的に決まったサービスを提供するのではありません。弁護士が1つの事件を丁寧にすれば際限なく時間をかけることができますし、簡単に済ませようとすれば最低限の時間と努力で終わらせることも出来ます。加えて、裁判の手続も法律も依頼者には分かりにくく、弁護士が手を抜いても依頼者には分かりませんし、逆に弁護士が一生懸命にやっていたとしてもそれもよく分かりません。このような弁護士の仕事を言い換えれば、「助っ人(すけっと)家業」なのです。信頼関係があって、「この依頼者をなんか助けてあげたい」と思えば、弁護士は際限なくいい仕事をしますが、信頼関係が築けず、「うるさい依頼者だから」とか「弁護過誤で訴えられるかもしれないから」と仕方なしにやっていれば、弁護士の仕事は際限なく雑な仕事になってしまいます。ですから、依頼者と弁護士との関係は信頼関係がなければ成立しえない関係なのです。局面は違いますが、芸術家や工芸職人の仕事に似ています。魂が入っていなければ、時間をかけても駄作になってします。この魂が弁護士にとっては信頼関係といえるものなのです。
私は坂本堤弁護士とその家族、都子さん、龍彦ちゃんは、自分たちの命を犠牲にして、オウム真理教から日本を、否、世界を救ったのではないかと思います。坂本堤弁護士とその家族の失踪事件が無ければ、オウム真理教の暴走に気づくものはなく、オウム真理教のクーデターは実行されていたのではないかと思います。松本サリン事件の際も、警察も公安も、マスコミもオウム真理教が犯人であるとは全く思っていなかった。河野義行さんという一市民が犯人とされました。地下鉄サリン事件も、オウム真理教と闘っていた一部の弁護士しか、その具体的危険を知らなかった。オウム真理教は、山梨県上九一色村富士ケ嶺のサティアンで、サリンの製造に成功し、山梨県富沢町で自動小銃まで大量生産し始めていたのです。警察や自衛隊にも信者がいました。坂本堤弁護士とその家族の犠牲が無ければ、オウム真理教による大量殺人とクーデターは成功し、多くの犠牲者が出たのであはないかと思います。警察も坂本堤弁護士とその家族の失踪事件がオウム真理によるものとはしていませんでした。オウム真理教が坂本堤弁護士とその家族を拉致したと疑った弁護士が、活動し、オウム真理教を追い詰めていきました。オウム真理教の事件が歴史的な事件として残る限り、坂本堤弁護士とその家族は、日本を救った家族として歴史に残ると思います。そして、このオウム真理教の事件が、弁護士と弁護士の集団が、国の歴史、国民の生命を左右する大きな事件を阻止する決定的な要因になった最初ではないかと思います。私は、平成3年の年末から翌年にかけて、上九一色村の住民から依頼されて、オウム真理を上九一色村から追い出すことができないか相談を受けるようになりました。当時、オウム真理教は、国民からは得体のしれない変な宗教団体であるという程度にしか、認識されていませんでした。また、私は司法修習生のときに坂本堤弁護士と多少ですが面識がありました。坂本堤弁護士は新進気鋭の弁護士であり、一度会っただけで、大物弁護士であることが実感できるような非常にインパクトの強い弁護士でした。私は、山梨県弁護士会の中で多少でも坂本堤弁護士を知っていた唯一の弁護士だったので、坂本弁護士一家救出の活動に参加するようになりました。上九一色村の住民から依頼されてオウム真理と闘うようになった動機の一つには、この活動の中で、坂本堤弁護士とその家族の救出ができればとの思いがありました。そして、すぐに坂本堤弁護士のご両親は山梨県の出身者であり、特に母親のさちよさんは、甲府市上石田の出身であることが分かりました。当時、私は駆け出しの弁護士で甲府の上石田のアパートに妻や子供たちと住んでいたので、何か縁を感じました。そのころから私は、オウム真理相手の裁判を滝本太郎弁護士が中心となって立ち上げたオウム真理被害対策弁護団の一員として行うようようになり、かつ、坂本堤弁護士一家を救出する活動も始めました。私は今でもオウム真理と闘うことができたこと坂本堤弁護士とその家族の殺害事件の真相究明に多少の役に立てたこと、何より山梨県からオウム真理教を放逐できたことを誇りに思っています。
裁判員制度については、弁護士の中には今でも反対論もあり、依頼者の皆さんの中にも選任されたらどうしようと不安を持っている方がおられます。裁判員制度は、以前に日弁連が求めてきた陪審制度とは異なり、問題点も多いと思います。しかし、司法の中に市民の意見や感覚が反映されていく絶好のチャンスであり、最高裁もこの点を強調しています。裏を返すと、これまで市民感覚からかけ離れた裁判がなされてきたことを示すものです。裁判員に選任されたら積極的に参加してください。「人を裁くという大それたことができるのだろうか」という不安を持っている方が大半です。しかし、そのことはとてもいいことです。これまで有罪判決馴れした官僚裁判官のもとで「被告人には騙されないぞ」という感覚で99パーセント超える有罪判決がなされてきました。これに対し、人を裁くことに慣れていないがゆえにその責任を重く感じる市民の裁判員による裁判は、より慎重な裁判になるはずです。慎重な審理を経たうえで、なお人を裁くことに不安を感じるなら、無罪を評決すればいいのです。それが刑事裁判の鉄則である、99人の犯人を逃しても1人の無辜を処罰してはならないという格言で説明される無罪推定の原則なのです。人を裁くことを職業的義務とする裁判官ではなく、人を裁くことに恐れおののいている市民こそ裁判員にふさわしいのです。
ある少年事件を受任して「大人になるということはどういうことか」つくづく考えさせられました。少年の強盗傷害事件だったのですが、被害者もまた少年(大学生)でした。しかし、被害者自身後遺症を残るほどの大けがを負っていたにもかかわらず、示談に応じてくれたのです。少なくとも事件までは、相手の立場に立って物を考えることのできなかった加害少年と被害を受けても相手の立場で物を考えることのできる被害少年を目の当たりにして、大人になるということは、相手の立場になって物を考えることのできる能力を身につけることではないかとつくづく思いました。加害少年もこれから相手の立場になって物を考えるようになってくれれば、おろかな犯罪を行うことはないと思いました。ひるがえって考えてみると、大人でも相手の立場に立って考えることができなくなっている人もいます。自分の地位に慢心していると、相手の立場が見えなくなる。弁護士も初心を忘れると、依頼者の立場で考えることができなくなる。自分は大人であると思っていたのに、本当にそうなのだろうかと思いました。つねに依頼者の立場で考えられる弁護士でいたいと思っています。
弁護士の仕事を続けてきて、この世の中で一番大切な物は何かと問われて、躊躇なく答えることができる答えがあります。それは、「真実」です。依頼者はいつも岐路に立たされ、悩み続けます。その時、何を基準にして決断するのか。真実は何かです。人は裏切っても真実は人を裏切らない。うそでは、人はがんばれない。人にやる気を起こさせ、困難に耐えさせるのは、真実です。ですから私は「嘘も方便」ということわざが大嫌いです。このくらい、人を誤らせるものはない。むしろ、「嘘は泥棒の始まり」というのは、きわめて正しい格言です。小さな嘘を一つつくと、もっと大きな嘘をつかなくければならなくなります。そして、本当のことを言えば、すべての信用を失うので、嘘をつき通さざるを得なくなります。小さなうそなら許されると勘違いしている人もいます。むしろ逆です。小さな嘘だからこそ、本当のことを言えなくなる。「なんでそんなつまらいことで嘘をつくのか」と思われ、まったく信用を失うのです。些細な小さなことで嘘をつく人間は、どんな大きな嘘をついているのか分からないと思われてしまうのです。真実を素直に受け入れ、開き直って真実で勝負することが、裁判でも、人生でも大切であると思っている次第です。
2011年12月から甲斐の杜法律事務所で勤務している山際誠弁護士は、労力を惜しまず、積極的に事件に取り組んでくれています。初めての私選の難しい刑事事件で保釈を勝ち取り、先日は初めての国選被疑者事件で勾留決定に対する準抗告を申し立て、勾留を取消させて釈放を勝ち取りました。準抗告で勾留を取消させて釈放を勝ち取ることはめったにないことで、これを初めての申し立てで勝ち取ったことは評価に値します。山際誠弁護士の今後の活躍を甲斐の杜法律事務所としても期待しています。
アメリカ連邦最高裁判事として有名なホームズ判事の言葉に「君たちが悔いのない仕事をしたいなら、君たちは時代の苦悩の中に身を置かねばならない。」という言葉があります。およそこの社会の争いは、社会の矛盾、時代の矛盾の中から生まれてきます。会社の倒産も労働事件も、家庭内の紛争も、根っこのところでは現代の矛盾、貧困化、クローバリズム、新自由主義などが基にあります。私も時代の苦悩の中に身を置いてそこから一つ一つの事件を解決していきたいと思っています。
甲斐の杜法律事務所では、暴力団員やその関係者の事件を受任しません。暴力団員の方にも人権はありますし、刑事手続きは守られなければなりません。ですから、弁護士が暴力団員の弁護をしても、問題はありません。しかし、私は、社会的に違法な団体を守ることには抵抗があります。それならもっと困っている人の救済に労力を使いたいという気持ちで、これらの団体や関係者の事件をお断りしています。もっとも、国選事件で、裁判所から依頼される事件は、受任することにしています。
もうずいぶん前のある夜のことです、私は溜った仕事がやりきれず、事務所で遅くまで仕事をしていました。夜9時か10時を過ぎた頃でしょうか。事務所の電話が鳴りました。電話に出ると、相手は名乗りもせず、突然「自分は今さっき人を殺してしまいました。そんな自分でも相談に乗ってくれますか」と言いました。びっくりしました。しかし、こんなとき弁護士は答えるのに躊躇してはいけないのです。弁護士の答えはこうです。「弁護士の最大の仕事で、最大の義務は依頼者の秘密を守ることです。どんなに優れた弁護士でも、これができなければ失格です。弁護士はあなたを警察に突き出したり、通報はしません。自首を勧めるくらいのことはあるかもしれませんが、安心して相談に来てください。」結局、その人は相談にやってきました。もっとも、その方は殺人者ではありませんでしたが、しかし、他人から見れば、それほどのことではなくとも、本人にとっては、殺人を犯したのと同じくらい深刻なことはあるものです。殺人者の秘密をも守ってくれるなら、自分のことも守ってもくれるに違いないというのが、弁護士に対する信頼なのです。
平成23年12月21日から、甲斐の杜法律事務所に山際誠弁護士が勤務しています。山際誠弁護士は34歳で、新潟県出身で、京都の立命館大学を卒業後、司法試験の旧試験を合格した現行63期の弁護士です。山際誠弁護士は当事務所に入所してすでに3か月を経過しましたが、精力的に仕事をこなしてくれています。真面目な人柄で人権感覚にすぐれた弁護士ですので、甲斐の杜法律事務所としては、山際誠弁護士の法律家としての成長に期待しているところです。山際誠弁護士を迎え、これからますます、依頼者の皆さんの期待に応えられるような充実した体制を作るよう弁護士及び事務員一同努力していきます。
弁護士になって最初に最初に依頼者に自信を持って言える知識は「保証人にだけは絶対にならないように」という言葉ではないでしょうか。おそらくすべての弁護士はそうアドバイスすると思います。連帯保証制度くらい悪い制度はない。増加している自殺の原因としても大きなものがあります。親族や身内が犠牲になり、自分の借金ならまだしも他人の借金でなんの利益もないまま一切の財産を失い、一生、自分を責め、身内を責めることになります。保険や物的担保の発達した現代、江戸時代の連帯責任をほうふつとさせるような連帯保証制度はなくなるべきだと思っています。今、民法改正の動きがありますが、日本弁護士連合会は保証制度改善の提言として今年9月15日に、主債務者が消費者である場合における個人保証の禁止及び主債務者が事業者である場合における経営者以外の第三者の保証の無効の提言を行っています。保証人は頼まれても、なってはいけません。個人に保証を依頼する時点ですでに主債務者に返済能力はないと思ってください。
家庭内での紛争は世間体もあり、どうしても当初、家庭内で解決しようとするものですが、身内同士で解決しようとしても、身内同士では感情が入り込むので紛争を激化させることがほとんどです。親戚の有力者を入れて解決しようとしても、今度は親戚も巻き込んだ大掛かりの紛争に発展してしまいます。私のこれまでの経験からすると、家庭内での紛争は早めに弁護士に入ってもらったり、家庭裁判所の調停を申し立てた方が賢明で、紛争を早期に円満に解決することができます。いい例が夫婦間の争いです。夫婦の間でいくら激しい喧嘩をしても、仲直りすることは比較的容易です。しかし、この争いに双方の親が介入してくるともうその時点で、やり直すことは不可能になります。それどこか話し合いの解決も困難になります。紛争がエスカレートする前にできるだけ早く弁護士にご相談ください。
甲斐の杜法律事務所の弁護士は私と長倉智弘弁護士です。長倉智弘弁護士は甲府市の出身で、私と同じく一橋大学法学部の出身です。私は刑事法の村井敏邦ゼミで長倉弁護士は民事訴訟法の竹下ゼミの出身です。長倉弁護士の得意分野は行政訴訟や環境訴訟です。山梨学院大学法科大学院や山梨大学で環境法の講義も持っています。甲斐の杜法律事務所発足のときから、長倉弁護士と一緒です。長倉弁護士と一緒に事務所を立ち上げたのは、大学が同じということもありますが、私が苦労していた北杜市長坂町の産業廃棄物処分場の事件を一緒に闘ってくれたこと、東京から長倉先生が戻ってから、自由法曹団の活動にさんかしてくれたことからです。今年の12月から新人の山際誠弁護士が新しいスタッフとして甲斐の杜法律事務に加わってくれることになりました。よろしくお願いします。